処方順序対称性分析 Prescription sequence symmetry analysis
定義
Prescription sequence symmetry analysis (PSSA [Sequence symmetry analysis: SSA]とも呼ばれる])は、1996年にHallasが導入した手法で、薬剤投与によって曝露とアウトカムを特定し、一定期間内のケースの曝露とアウトカムの時間的順序の比を算出することにより、曝露とアウトカムの関連を評価する研究デザインである。PSSAでは、追跡期間中の曝露とアウトカムの両方が観察されている対象者のみを対象とする。観察される曝露とアウトカムの順序は曝露からアウトカムの順、またはその逆のいずれかであり、曝露からアウトカムの順で発生した対象者の数を、アウトカムから曝露の順で発生した対象者の数で除して順序比を算出することにより曝露とアウトカムの関連を評価する。時間的トレンドが曝露に影響しない場合や、全集団にわたるイベントの発生率が一定で、曝露とイベント間に関連性がない場合、順序比は1になると期待される。この方法は、潜在的な副作用など、さらに検討が必要な仮説を抽出する「シグナル検出法」として一般的に利用される。
実例
Takeuchiらは、健康保険組合のレセプトデータを使用して、日本で承認されている非定型抗精神病薬と脂質異常症発症の関連をSSAで評価した。健康保険の請求データを基に、9種類の非定型抗精神病薬を対象にした。脂質異常症の発症は脂質異常症治療薬投与で特定した。曝露とアウトカム(脂質異常症の発症)の関連を評価する期間は90日以内に設定し、曝露からアウトカムの順で発生した対象者数と、アウトカムから曝露の順で発生した対象者数の順序比とその信頼区間を算出して評価した。その結果、オランザピンは脂質異常症発症のリスク増加と関連していた(調整順序比 1.56; 95%信頼区間1.25-1.95)。他の非定形型抗精神病薬(リスペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリン、クエチアピン、アリピプラゾール)では、脂質異常症発症と関連性がないことと矛盾しなかった(調整順序比の点推定値は1付近で、95%信頼区間はいずれも比較的狭くnull valueを含む)。パリペリドンとゾテピンについては、サンプルサイズが小さかったことから統計学的に不安定な推定結果(広い信頼区間)となった。
参考資料
- Hallas J. Evidence of depression provoked by cardiovascular medication: a prescription sequence symmetry analysis. Epidemiology 1996; 7: 478-84.
- 久保田潔. 研究デザイン. In:景山茂, 久保田潔 編. 薬剤疫学の基礎と実践. ライフサイエンス出版, 2021. p.129-210.
- 佐藤俊哉, 山口拓洋, 石黒智恵子. 2.4 研究デザインの選択. In:これからの薬剤疫学 : リアルワールドデータからエビデンスを創る. 朝倉書店, 2021. p.46-67.
- Takeuchi Y, Kajiyama K, Ishiguro C, Uyama Y. Atypical Antipsychotics and the Risk of Hyperlipidemia: A Sequence Symmetry Analysis. Drug Saf 2015; 38: 641-50.
- 川上浩司, 漆原尚巳, 佐藤泉美. PASSの研究デザイン 4.2 自己対照研究 自己対照デザインの種類. In:リアルワールドデータと薬剤疫学. 大修館書店, 2022. p.154-5.