横断研究 Cross-sectional study
定義
横断研究(Cross-sectional study)は、対象集団のある一時点の曝露や疾患の分布状況を調べる研究デザインである。全ての測定は同じ時点で行われるため、横断研究で得られるのは、測定時点で疾患もしくは事象を有している人々の割合、すなわち有病割合(prevalence)である。ある期間に渡って追跡調査し疾患や事象の発生を推定できるコホート研究などの2時点以上から測定する縦断研究(Longitudinal study)とは異なり、発生率(incidence rate)や発生割合(incidence proportion)を算出することはできない。しかし、追跡の必要がないため、比較的短時間・低コストで研究実施することができ、脱落の心配がないという利点もある。
横断研究は、曝露や疾患の関連を調べるためにも用いられるが、どの因子が予測因子やアウトカムとなるかを判断するのは難しい。さらに、時間的前後関係が不明であり、曝露の有無による発生率の違いも示すことができないため、因果関係の推測は困難である。
*有病割合は慣例的に有病率と呼ばれることも多く、事象を有する人々の割合を示す場合は存在割合(存在率)と記載することもある。
実例
2020年10月15日から12月7日に、89の国と地域の腫瘍医を対象として電子的にアンケートを配布し、腫瘍医が自国の臨床現場で優先するがん治療薬とそれらの利用可能性、及び費用について調査した。対象エリアには、低所得、低中所得、中所得、高所得の国と地域が含まれており、腫瘍医は成人に対する全身性の抗がん剤治療の資格を持つ者に限定された。質問票はパイロット調査を経て改訂された28の質問項目から成り、主要質問では、自国でがん治療薬が10種類しか使えないと仮定した場合に選ぶ薬剤が尋ねられ、続いてそれらの自国での利用可能性や患者の費用負担についても尋ねられた。選ばれた薬剤が世界保健機構(World Health Organization, WHO)の必須医薬品リスト(Essential Medicines List, EML)に掲載されているか、またこれら薬剤への利用可能性や費用負担の可能性を、低所得、低中所得、中所得、高所得の国と地域に分けて比較した。
82国の948人の腫瘍医から回答が得られ、よく選択された薬剤にはドキソルビシン、シスプラチン、パクリタキセル、ペムブロリズマブ、トラスツズマブ、カルボプラチン、5-フルオロウラシルがあり、選ばれた薬のうち19種類(95%)がWHO EMLに掲載されていた。上位20種類の薬の普遍的な利用可能性があると回答した割合は、低所得・中所得国では9–54%、中所得国では13–90%、高所得国では68–94%だった。低所得・中所得国では大きな費用負担があると13–68%が回答していた。
参考資料
- 久保田潔. 研究デザイン. In:景山茂, 久保田潔 編. 薬剤疫学の基礎と実践. ライフサイエンス出版, 2021. p.129–210.
- 矢野栄二, 橋本英樹, 大脇和浩 監訳. 疫学研究の種類. In:ロスマンの疫学 : 科学的思考への誘い. 篠原出版新社, 2013. p.103–56.
- 木原雅子, 木原正博 訳. 研究デザイン 7 横断研究とコホート研究をデザインする 横断研究. In:医学的研究のデザイン : 研究の質を高める疫学的アプローチ. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014. p.98–101.
- Fundytus A, Sengar M, Lombe D, et al. Access to cancer medicines deemed essential by oncologists in 82 countries: an international, cross-sectional survey. Lancet Oncol 2021;22: 1367–77.