一般社団法人 日本薬剤疫学会

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ケースシリーズ Case series

定義

ケースシリーズ(Case series)は、単一の曝露を受けた患者、または単一のアウトカムに至った患者の集積と定義され、ある疾患またはある曝露を有する患者集団(集積された症例)の臨床的特徴を記述する研究デザインである。市販後安全性評価において、同一の因子(多くは薬剤)に曝露された集団を対象としたケースシリーズは副作用の発生の定量に役立つ。また、市販前の研究対象者集団より大きなサンプルサイズの調査において特定の副作用が発生しないことを確認する目的にも役立つとされている。

ケースシリーズを構成する症例報告は、異なる情報源に由来することがあり、その場合でも対象となる事象の臨床的特徴に重点を置き、医薬品との因果関係に関係なく症例の定義を確立する必要がある。有害事象の発症状況(例: 発症は曝露直後・時間経過後、重症度)や、曝露の程度(例: 量、回数、期間)、患者の背景因子(例: 併用薬、併存疾患)などの共通の特徴を明らかにすることが目的である。

一方、コントロール(例: ある疾患の未発症群、ある因子の非曝露群)は置かないため、アウトカムの発生率やある特徴の有病率が高いのか低いのかを決定するには不十分であり,ケースシリーズの情報だけで因果関係の推論を行うことは一般的に困難である。

実例1

1981年6月に米国のCenters for Disease Control and Preventionが編纂しているMorbidity and Mortality Weekly Report 誌上に5人の若者に関するケースシリーズが掲載された。5人全員が同性愛者であり、ニューモシスチス・カリニ肺炎およびカンジダ症を発症していた。そのうち2名は死亡した。臨床的に明らかな免疫不全がなく、健康であった5人の若者にニューモシスチス・カリニ肺炎が発生するのは珍しいことだと、報告を受けた編集者が注釈をつけている。後に後天性免疫不全症候群(Acquired immunodeficiency syndrome)と呼ばれることになる症例の米国での最初のケースシリーズである。

実例2

2022年4月27日から6月24日に16ヵ国43施設でサル痘感染症と診断された528人の感染者の感染経路、リスク因子、臨床症状、転記が報告された。98%の感染者(中央値38歳)がゲイまたはバイセクシャルの男性で、75%が白人、41%がヒト免疫不全ウイルス(HIV) 感染症者だった。性行為を介した感染が疑われた感染者は95%だった。症状は、皮疹が95%の感染者に見られ、そのうち73%は肛門性器、41%は粘膜に皮疹が見られた。多く報告された全身的症状は、発熱、嗜眠、筋肉痛、頭痛だった。曝露歴が明らかな23人での潜伏期間の中央値は7日(範囲3–20日)だった。70名(13%)が入院しておりその最も多い理由は疼痛管理だった。入院の頻度はHIV感染の有無で違いはなかった。5%のみがサル痘専用の治療を受けた。死亡は報告されていない。

参考資料

    • 川上浩司, 漆原尚巳, 田中司郎 監. 薬剤疫学概論 第2章 薬剤疫学研究に使用する研究デザイン 疫学研究デザイン. In:ストロムの薬剤疫学. 南山堂, 2019. p.28–9.
    • 川上浩司, 漆原尚巳, 田中司郎 監. 薬剤疫学のデータソース 第7章 市販後安全性監視自発報告システム 概要. In:ストロムの薬剤疫学. 南山堂, 2019. p.144–5.
    • 木原雅子, 木原正博訳. 医学的研究のデザイン: 研究の質を高める疫学的アプローチ. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014.p.100–1
    • Centers for Disease Control (CDC). Pneumocystis pneumonia-Los Angeles. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 1981; 30: 250–2.
    • Thornhill JP, Barkati S, Walmsley S, et al. Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries – April-June 2022. N Engl J Med 2022; 387:679–91.