分割時系列分析研究 Interrupted time series design
定義
分割時系列分析研究(Interrupted time series design: ITS)は、何らかの介入の前後で複数回測定されている時系列データを用いて、その介入の有効性を評価する際に用いられる研究デザインである。薬剤疫学の領域では、特定されたリスク(副作用)に対して講じられたリスク最小化策(例:副作用の抑制のための対象集団の制限・他剤の併用禁忌・処方前の検査実施など)が、臨床現場において有効に機能しているかどうかを評価したい場合に用いられることが多い。この場合の有効性は、措置前後でのリスク最小化策の遵守の程度(例:特定の集団への処方割合・併用割合・検査実施割合など)の変化、あるいは、措置前後での当該有害事象発生頻度の変化よって評価される。ITSではセグメント回帰分析を用いることで介入の影響を定量的に評価することができる。時系列データを当該介入の前後で分けてセグメントを構成し、各セグメントにおける回帰直線の切片と傾きを比較する。切片(レベル)の変化から短期的な影響を、傾き(トレンド)の変化から長期的な影響を評価することができる。もし、介入による影響がない場合は、回帰直線に変化が見られない。なお、この評価では注目する介入以外の事象は介入前後で変化がないという仮定が敷かれている。そのため、介入以外の事象の変化による影響がないかを確認するために、介入の影響がない対照群を設定し、対照群にもITSとセグメント解析を適用する場合がある。
実例
2015年2月、欧州医薬品庁は、不安、皮膚疾患、睡眠障害の治療に用いられるヒドロキシジンがQT延長や心室頻拍等を引き起こすと結論づけ、添付文書を改訂した。この安全対策措置の臨床現場への影響を確認するため、2009–2018年のデンマーク、イングランド、スコットランド、オランダにおける、ヒドロキシジンの処方開始について、それぞれ措置前後の変化を四半期毎の分割時系列分析により評価した。2015年措置実施後の即時的な薬剤開始人数の有意な減少がイングランド(10万人あたり −12.05[95%信頼区間(95% CI), −18.47 to −5.63])とスコットランド(−19.01[95% CI, −26.99 to −11.02])で確認され、デンマークまたはオランダでは変化は観察されなかった。措置実施後の薬剤開始人数の長期的な減少傾向が、イングランド (10万人・四半期あたり −1.72[95% CI, −2.69 to −0.75])、スコットランド(−2.38[95% CI, −3.32 to −1.44])で有意な傾きの変化として確認され、デンマークとオランダでは見られなかった。2015年のEMAによるヒドロキシジンに関する規制措置の処方開始への影響は国によってばらつきがあった。
参考資料
- Wagner AK, Soumerai SB, Zhang F, Ross-Degnan D. Segmented regression analysis of interrupted time series studies in medication use research. J Clin Pharm Ther 2002; 27: 299–309.
- Bernal JL, Cummins S, Gasparrini A. Interrupted time series regression for the evaluation of public health interventions: a tutorial. Int J Epidemiol 2017; 46: 348–55.
- Morales DR, Macfarlane T, MacDonald TM, et al. Impact of EMA regulatory label changes on hydroxyzine initiation, discontinuation and switching to other medicines in Denmark, Scotland, England and the Netherlands: An interrupted time series regression analysis. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2021; 30: 482–91.